2026年9月3日、ChatGPT、Claude、Grokなど複数の主要AIサービスで、ほぼ同じ時間帯に障害やエラー増加が報告されました。OpenAIの公式ステータスページでは、ChatGPTとCodexでエラー率が上がったこと、影響を受けたコンポーネントがChatGPTで15件、Codexで4件あったこと、同日中に解消したことが示されています。Anthropicのステータスページでも、Claudeの複数モデルでエラーが発生し、調査、原因特定、修正、監視、解消へ進んだ経緯が記録されています。
このニュースで重要なのは、「どの会社のAIが止まったか」だけではありません。文章作成、要約、プログラミング、顧客対応、調査、画像生成、社内ナレッジ検索など、AIを日常業務の入口に置く人が増えたことで、AIサービスの短時間の不調でも仕事の流れが止まりやすくなっている点です。AIは便利な道具から、業務を支えるインフラの一部に近づいています。だからこそ、障害時に何を確認し、どこまで人の手順へ戻し、どの記録を残すかを決めておく必要があります。
この記事では、2026年9月3日の主要AIサービス障害を手がかりに、個人、小規模事業者、企業チームが確認したいAI依存リスクと業務継続の考え方を整理します。特定のAIサービスの利用を勧めたり、やめるよう求めたりする内容ではありません。医療、法律、税務、投資、雇用、契約、セキュリティ、行政手続きなど重要な判断を含む業務では、AIの可用性にかかわらず、公式情報、専門家、責任部署、契約条件、社内規程を確認してください。

- まず結論 AI障害は「まれな事故」ではなく運用前提に入れる
- 2026年9月3日に何が起きたのか
- なぜAIサービス障害の影響は広がりやすいのか
- 個人利用で確認したいこと
- 小規模事業者が最初に作るべき代替手順
- 企業チームでは「利用量」より「止まった業務」を記録する
- AI障害時の初動 5つの確認
- 代替AIを持てば解決するのか
- AIを組み込んだワークフローの見直し方
- インシデント対応として見るAI障害
- 開発現場で特に注意したいCodexやコード支援の停止
- 顧客対応や広報で避けたい判断
- 家庭や教育現場では「使えない時の学び方」も用意する
- 今回のニュースから作れるチェックリスト
- よくある誤解を整理する
- まとめ AIを使うほど、止まった時の戻り道が価値になる
- 参考資料
まず結論 AI障害は「まれな事故」ではなく運用前提に入れる
今回のようなAIサービスの障害は、AIを使う人にとって不便な出来事です。ただし、クラウドサービス、決済サービス、メール、チャット、オンライン会議、検索エンジンと同じように、外部サービスである以上、停止や遅延は完全には避けられません。大切なのは、障害が起きた瞬間に慌てて代替策を探すのではなく、「止まることがある」という前提で業務の設計をしておくことです。
AIの場合、停止の影響は見えにくい形で広がります。メールが止まれば送受信できないことがすぐ分かりますが、AIが不安定な時は、ログインできない、回答が遅い、ファイルが処理されない、コード支援だけが使えない、音声や画像だけ失敗する、APIの一部だけエラーになるなど、影響が分かれます。そのため「AIが全部使えない」と一括りにせず、どの業務、どの機能、どの利用者、どの時間帯で問題が起きているかを切り分ける必要があります。
結論として、AI活用でまず整えたいのは高価なバックアップ環境ではなく、簡単な確認手順です。公式ステータスを見る、利用者からの報告を集める、重要業務を先に分ける、代替できる作業は人や別手順へ戻す、復旧後に記録を残す。この基本だけでも、障害時の混乱はかなり減らせます。
2026年9月3日に何が起きたのか
OpenAIのステータスページでは、2026年9月3日に「ChatGPTとCodexでエラー率が上がった」旨のインシデントが掲載されました。時刻表示では、調査開始、緩和策の適用、監視、解消という順に更新が進み、最終的に問題は解決済みとされています。同ページには、ChatGPTの15コンポーネントとCodexの4コンポーネントが影響を受けたことも示されています。Codexの一部ユーザーでは、インシデント後にモバイル端末の再ペアリングが必要になる可能性があるとの補足もありました。
Anthropic側でも、同じ9月3日にClaudeの複数モデルでエラー率上昇が記録されました。ステータスページには、Claude Mythos 5.1、Claude Fable 5.1、Claude Opus 5などへの影響、途中段階で対象モデルが絞られていったこと、最終的に影響が終了したことが示されています。別の時間帯にはClaude Sonnet 5のエラーも記録されており、同じ日に複数の障害情報が並ぶ形になりました。
報道各社も、ChatGPT、Claude、Grok、Geminiなどで利用者から障害報告が相次いだと伝えています。ForbesはDowndetector上の報告数をもとに、米国東部時間の午前中にChatGPTの報告が大きく増え、その後減少したと整理しました。The Vergeも、複数のAIチャットボットが近い時間帯に停止または不安定になったと報じています。ただし、複数サービスの障害が同じ原因だったかどうかは、各社の公式発表だけでは断定できません。記事を読む側は「同時に見えた」ことと「同じ原因だった」ことを分けて理解する必要があります。
ここで押さえたいのは、障害の長さだけではありません。たとえ短時間で復旧しても、社内のワークフローがAI前提になっている場合、下書き作成、コード確認、問い合わせ分類、資料要約、会議準備などが一時的に止まります。外部サービスの問題が、自分の仕事の遅延、顧客対応の遅れ、社内確認の混乱につながる。このつながりを見える化することが、今回のニュースから学べる実務上のポイントです。

なぜAIサービス障害の影響は広がりやすいのか
AIサービスは、見た目には一つのチャット画面や一つの開発支援ツールに見えます。しかし実際には、認証、ファイルアップロード、音声、画像、検索、外部ツール連携、API、モデル推論、課金、管理画面、ログ保存など、複数の機能が組み合わさっています。どこか一部が不安定になるだけで、利用者からは「AIが動かない」と見えます。
さらに、AIは作業の途中に入り込みます。文章作成なら、構成案、見出し、要約、校正、メール返信案、社内説明資料などの各工程で使われます。プログラミングなら、仕様整理、コード生成、テスト、レビュー、エラー調査、ドキュメント作成に関わります。営業やサポートでは、顧客情報の整理、問い合わせ分類、FAQ案、会話要約に使われます。つまり、AIが止まると一つのアプリだけでなく、複数の作業の速度に影響します。
もう一つの理由は、利用者がAIに慣れるほど、代替手順を忘れやすいことです。以前は人が検索し、過去資料を探し、文章を整え、表を見比べていた作業でも、AIに任せることが当たり前になると、手作業へ戻る手順が曖昧になります。特に新入社員や業務委託先が、最初からAI前提の手順で教育されている場合、AIが使えない時にどこを見ればよいか分からなくなることがあります。
これはAIの利用を避けるべきという話ではありません。むしろ、よく使うからこそ、止まった時の戻り方を決める必要があるという話です。業務で使う道具ほど、代替策と復旧時の確認が必要になります。
個人利用で確認したいこと
個人利用の場合、AI障害で最も困るのは「今すぐ終わらせたい作業」が止まることです。レポートの下書き、メール文面、翻訳、学習の質問、コードの修正、画像の生成など、締め切り前にAIへ頼っている作業ほど影響を受けます。まずは、AIが使えない時でも最低限進められる資料、メモ、テンプレートを手元に残しておくと安心です。
たとえば、よく使うプロンプトだけでなく、元資料の保存場所、参考にする公式ページ、文章テンプレート、自分で確認するチェックリストを残しておきます。AIが復旧するまで完全に止まるのではなく、素材集め、箇条書き、構成案の手書き、参照元の確認など、人ができる部分を先に進められます。
学習や調査では、AIの回答だけをノート代わりにしないことも重要です。AIが止まった時に復習できなくなるだけでなく、回答の根拠を後から追えなくなります。重要な内容は、出典リンク、書籍名、公式資料名、自分の理解を書いたメモとして残しておくと、サービス障害にも誤回答にも備えられます。
医療、法律、税務、投資などの判断では、AIの可用性以前に、AIの回答を最終判断にしない姿勢が必要です。AIが使える時でも、症状への対応、契約判断、申告内容、資産運用、雇用上の対応などは、公式窓口や専門家へ確認する対象です。障害時に別のAIへ急いで聞き直すより、信頼できる一次情報へ戻る習慣を作る方が安全です。
小規模事業者が最初に作るべき代替手順
小規模事業者では、AIを使う人が少ない一方で、一人の作業が止まる影響が大きくなりがちです。問い合わせ対応、SNS投稿、見積書の説明文、商品説明、ブログ記事、議事録、社内マニュアルなどにAIを使っている場合、障害が起きた時に「誰が何を代わりにするか」を決めておく必要があります。
最初に作るべきなのは、立派な事業継続計画ではなく、1ページの代替手順です。そこには、AIが使えない時に確認するステータスページ、影響を受ける業務、当日中に必ず処理するもの、翌日に回せるもの、人が手作業で進める場合のテンプレート、顧客へ連絡が必要な条件を書きます。これだけでも、障害時の判断が速くなります。
顧客対応にAIを使っている場合は、回答の品質と責任の所在も確認が必要です。AIが使えない時に返信が遅れるなら、無理に別のAIで急いで生成するより、回答期限を伝え、事実確認を優先する方がよい場合があります。特に料金、契約、返品、健康、安全、個人情報に関わる問い合わせでは、AIが出した文面をそのまま送らず、責任者が確認する流れを残してください。
また、複数のAIサービスを契約している場合でも、それだけで十分なバックアップになるとは限りません。別サービスが使えても、入力できる情報の条件、保存期間、管理者設定、社内承認、出力品質が違うためです。代替AIを使う場合は、どの情報まで入力してよいか、どの業務なら使ってよいかを事前に決めておく必要があります。
企業チームでは「利用量」より「止まった業務」を記録する
企業でAIを導入すると、管理者は利用回数、トークン数、コスト、アカウント数を見がちです。もちろん費用管理は重要ですが、障害対応では「何回使われたか」より「止まった業務は何か」の方が大切です。AIが止まっても影響が少ない用途と、数十分の停止でも顧客対応や開発リリースに影響する用途は分けて扱う必要があります。
たとえば、社内アイデア出しや文章の表現調整であれば、復旧後に作業すれば済むことがあります。一方で、サポート窓口の一次分類、監視アラートの要約、コード修正の緊急確認、障害報告文の作成、医療・金融・公共サービス関連の説明資料などにAIを組み込んでいる場合、影響は大きくなります。AIの停止時間だけでなく、その時間にどの重要業務がAIを前提にしていたかを記録してください。
NISTのAIリスク管理フレームワークは、AIリスクを組織として把握し、測り、管理する考え方を示しています。今回のような障害を考えるときも、AIの性能だけでなく、信頼性、説明可能性、プライバシー、セキュリティ、責任、運用上の回復力を合わせて見る必要があります。生成AIはモデルの精度だけで評価されがちですが、業務に入れた瞬間から、可用性と復旧手順も評価対象になります。
企業チームでは、AI障害時の連絡経路も決めておきたいところです。現場の利用者、情報システム部門、セキュリティ担当、業務責任者、法務やコンプライアンス担当が、それぞれ何を判断するのかが曖昧だと、復旧後にも混乱が残ります。障害そのものが短時間で終わっても、誰が社内へ周知するのか、手作業で行った処理をどう記録するのか、AI復旧後に二重処理が起きていないかを確認する必要があります。
AI障害時の初動 5つの確認
AIサービスが不安定になった時、最初の数分でやることは多くありません。まず、利用者個人の端末やネットワークだけの問題なのか、サービス側の問題なのかを切り分けます。公式ステータスページ、社内の利用者報告、同じ環境の別ユーザーの状況を確認します。ここでSNSの投稿だけに頼ると、情報が早い反面、誤解や古い情報も混じります。公式ページと実際の社内症状を合わせて見るのが現実的です。
次に、影響を受ける業務を分類します。すぐ顧客に影響する作業、社内だけで完結する作業、翌日でもよい作業、AIなしでも進められる作業を分けます。この分類ができるだけで、全員が同じ作業を止めて待つ状態を避けられます。
三つ目は、代替手順へ切り替える条件です。たとえば、10分以上復旧しない場合は手作業のテンプレートを使う、30分以上続く場合は顧客対応の優先順位を変える、1時間以上続く場合は管理者が状況を社内共有する、といった基準です。時間の基準は業務によって変わりますが、事前に目安を決めておくと、現場判断の負担が下がります。
四つ目は、入力情報の扱いです。急いでいる時ほど、別サービスへ同じ情報を貼り付けたくなります。しかし、顧客情報、未公開資料、契約書、個人情報、認証情報、社内機密を別サービスへ移す場合は、契約条件と社内ルールを確認する必要があります。障害時だからといって、情報管理の基準を下げないことが重要です。
五つ目は、復旧後の確認です。AIが再び使えるようになった時、途中で手作業に切り替えた処理、未送信のメッセージ、重複して作成された文章、途中まで生成したコード、失敗したAPI処理が残っていないかを確認します。復旧直後は、障害そのものより、二重処理や確認漏れが問題になりやすいからです。

代替AIを持てば解決するのか
「一つのAIが止まるなら、別のAIを契約すればよい」と考えるのは自然です。実際、文章作成や要約などの軽い用途では、複数サービスを使える状態にしておくと助かる場面があります。ただし、代替AIは万能の解決策ではありません。
第一に、同じ時間帯に複数サービスが不安定になることがあります。今回の報道でも、複数のAIチャットボットで近い時間帯に障害報告が出ました。原因が同じかどうかは断定できませんが、利用者側から見れば「どれか一つは必ず動く」とは言い切れないことが分かります。
第二に、サービスごとに得意分野、料金、利用規約、データ保持、管理機能、出力形式が異なります。あるAIで作ったプロンプトを別のAIへそのまま入れても、同じ品質や同じ注意深さの回答になるとは限りません。医療、法律、税務、投資、採用、契約、セキュリティなどの重要領域では、代替AIの回答を急いで採用するのではなく、公式資料や専門家確認へ戻す方が適切です。
第三に、代替AIを使うこと自体が追加リスクになる場合があります。普段は入力しない外部サービスへ顧客データを貼る、社内未公開資料をアップロードする、APIキーを別の環境へ移す、管理者承認なしに連携を増やす、といった行為は、障害対応のつもりでも情報管理上の問題につながります。
したがって、代替AIを用意する場合は、「どの業務で使えるか」「どの情報は入れないか」「出力を誰が確認するか」「利用記録をどう残すか」をセットで決める必要があります。バックアップはサービス名の数ではなく、運用ルールと一緒に機能します。
AIを組み込んだワークフローの見直し方
AI障害を機に見直したいのは、ワークフローのどこにAIが入っているかです。多くの組織では、正式なシステム導入より先に、現場が個別にAIを使い始めます。文章作成、表計算の説明、社内資料の要約、コードの下書き、調査メモなど、便利な用途から自然に広がります。その結果、管理者が把握していないところで、AIが業務の前提になっていることがあります。
まずは、AIを使っている業務を棚卸しします。難しく考えず、部署ごとに「毎日使う」「週に数回使う」「たまに使う」「使っていない」を分けるだけでも十分です。次に、各業務について、AIが止まったら業務が止まるのか、遅れるだけなのか、品質確認が増えるのかを記録します。ここで重要なのは、利用者を責めることではなく、実態を見える化することです。
次に、AIへの依頼内容を分解します。入力する情報、期待する出力、出力を使う先、最終承認者、外部送信の有無、保存される記録を確認します。これにより、障害時に人が戻すべき作業と、復旧まで待ってよい作業が分かります。
最後に、復旧後の再開手順を決めます。障害中に作った手作業の成果物をAIへ再入力する必要があるのか、AI出力を破棄するのか、失敗したAPI処理を再実行するのか、顧客へ送った文面を記録するのか。ここを決めておかないと、復旧後に同じ問い合わせへ二重返信したり、古い下書きを最新情報として扱ったりするおそれがあります。
インシデント対応として見るAI障害
AIサービス障害は、必ずしも自社へのサイバー攻撃ではありません。しかし、業務が止まる、データ処理が遅れる、顧客対応に影響する、代替手順が必要になるという意味では、インシデント対応の考え方が役に立ちます。NIST SP 800-61 Rev. 3は、サイバーセキュリティのインシデント対応について、準備、検知、対応、復旧を含むリスク管理の考え方を示しています。AI障害でも、この流れを軽量に応用できます。
準備では、ステータスページ、社内連絡先、代替手順、重要業務一覧を用意します。検知では、利用者からの報告、APIエラー、処理遅延、ログイン失敗、外部ステータスを確認します。対応では、重要業務を優先し、手作業へ切り替え、必要な範囲で社内や顧客へ状況を伝えます。復旧では、未処理、重複処理、データ不整合、利用者への再案内を確認します。
ここで大切なのは、すべてを大げさな危機対応にしないことです。小さなチームなら、チェックリストと連絡先だけで十分な場合があります。大企業や重要インフラ、医療、金融、公共サービスなどでは、既存の事業継続計画やインシデント対応計画にAI利用を組み込む必要があります。規模とリスクに合わせて、現実的な対応を作ることが重要です。
CISAはレジリエンスを、脅威や障害に備え、変化に適応し、影響を受けても回復する能力として説明しています。AI利用でも同じです。AIが常に動く前提ではなく、止まった時に重要機能をどう維持するか、復旧後にどう通常運用へ戻すかを考えることが、実務上のレジリエンスになります。
開発現場で特に注意したいCodexやコード支援の停止
今回のOpenAIステータスでは、ChatGPTだけでなくCodexも影響対象に含まれていました。コード支援AIは、単に便利な補助ツールではなく、開発者の日々の作業速度に直結します。仕様の読み解き、テスト追加、エラー調査、レビュー、ドキュメント更新などに使っているチームでは、短時間の停止でもリリース計画や障害対応に影響することがあります。
開発現場では、AIが使えない時でも進められる作業を明確にしておくと効果的です。既存テストの実行、ログの整理、再現手順の確認、仕様書の読み直し、レビューコメントの分類、デプロイ手順の確認などは、AIがなくても進められます。逆に、AIが生成したコードを復旧後にまとめて取り込む場合は、差分レビューとテストを省略しないことが重要です。
また、AIエージェントがリポジトリ、チケット、クラウド環境、CI、データベースなどに接続している場合は、権限を見直してください。読み取り専用で足りる作業に書き込み権限を与えない、本番環境へ直接変更できる操作には人の承認を挟む、APIキーや秘密情報をプロンプトへ貼らない、失敗した自動処理を再実行する時は重複実行の影響を見る。これらは障害時だけでなく、通常時にも必要な基本です。
AIコード支援が止まると、作業速度が落ちるだけでなく、開発者が普段AIに任せていた確認を自分で行う必要が出ます。チームとしては、AIが使えない日にレビュー品質が落ちないよう、チェックリストやペアレビューの運用を準備しておくとよいでしょう。
顧客対応や広報で避けたい判断
AI障害時に顧客対応や広報へ影響が出る場合、焦って不確かな説明を出すのは避けたいところです。たとえば、問い合わせへの返信が遅れている理由をAI障害だけに帰す、原因が分からない段階で断定する、復旧見込みを根拠なく伝える、別のAIで急いで作った文面を確認せず送る、といった対応は、後から信頼を損なう可能性があります。
顧客向けには、分かっている事実、影響範囲、次の連絡予定、代替手段を簡潔に伝えるのが基本です。原因や責任の所在が確認できていない場合は、断定せず、確認中であることを明確にします。契約上のサービスレベル、返金、補償、個人情報、セキュリティに関わる内容は、法務、契約担当、セキュリティ担当など責任部署の確認を通してください。
広報文やお知らせ文をAIで作ること自体は可能ですが、障害時ほど内容確認が重要です。AIは自然な文章を作れても、契約条項、時刻、影響範囲、責任表現、法的な含意を正しく判断できるとは限りません。特に医療、金融、教育、公共サービスなど、利用者の生活に影響する分野では、説明の正確さと責任ある表現が求められます。
家庭や教育現場では「使えない時の学び方」も用意する
生成AIは、家庭学習や教育現場でも使われるようになっています。調べもの、作文の相談、英語の練習、プログラミングのヒント、問題の解説など、学習の入り口として便利です。しかし、AIが使えない時に学習が完全に止まる状態は望ましくありません。
家庭では、AIを使う時も、教科書、ノート、辞書、公式教材、先生から配られた資料へ戻れるようにしておくことが大切です。AIに質問した内容をそのまま終わりにせず、自分の言葉で短くメモする習慣をつけると、サービスが止まっても学習を続けやすくなります。
教育現場では、AIが使える前提の課題と、AIなしで取り組む課題を分ける設計が必要です。AI障害時に提出期限や評価へ影響する場合は、事前に代替手順を示しておくと混乱を避けられます。また、AIの回答を正解として扱うのではなく、根拠の確認、出典の比較、自分の説明へ変換する力を育てることが重要です。
未成年の利用では、プライバシー、年齢に応じた利用条件、学校や家庭のルールも確認対象です。AIが止まった時に別サービスへ安易に移るのではなく、保護者や学校の方針に沿って利用範囲を決める必要があります。
今回のニュースから作れるチェックリスト
AI障害に備えるための確認項目を、実務で使いやすい形にまとめます。
- 主要AIサービスの公式ステータスページをブックマークしているか
- AIを毎日使う業務と、たまに使う業務を分けているか
- AIが止まった時に当日中に処理する業務を決めているか
- 手作業で戻せるテンプレートや手順書があるか
- 別のAIを使う場合、入力してよい情報の範囲を決めているか
- 顧客情報、契約書、個人情報、未公開資料を扱う時の確認者を決めているか
- 復旧後に二重処理、未処理、古い下書きを確認する手順があるか
- 障害時の社内連絡先と責任者が分かるか
- 障害の記録を残し、翌日以降の改善に使っているか
このチェックリストは、すべてを一度に整えるためのものではありません。まずは、よく使うAIサービス、よく止まると困る業務、入力してはいけない情報の三つから確認すると始めやすいでしょう。小さくても実際に使える手順を作る方が、形だけの長い文書より役に立ちます。
よくある誤解を整理する
一つ目の誤解は、「AI障害は大手サービスではほとんど起きない」というものです。大手サービスでも、利用者数が多く、機能が複雑で、世界中からアクセスされる以上、障害や遅延は起こり得ます。可用性の高さは重要ですが、ゼロリスクではありません。
二つ目は、「短時間なら問題ない」という考え方です。確かに、個人のメモ作成なら短時間の停止で済むかもしれません。しかし、顧客対応、開発リリース、緊急調査、社内承認、問い合わせ分類など、時間が重要な業務にAIが組み込まれている場合、短時間でも影響は出ます。停止時間より、止まった業務の重要度を見る必要があります。
三つ目は、「別のAIへ切り替えれば同じことができる」という理解です。AIサービスは似ていても、出力、料金、データの扱い、管理機能、利用規約は異なります。特に重要情報を扱う場合、別サービスへの切り替えは情報管理上の判断を伴います。
四つ目は、「AIが復旧すれば終わり」という考え方です。復旧後には、障害中に止めた処理、手作業で進めた処理、失敗したAPI処理、途中生成の下書き、顧客への連絡状況を確認する必要があります。復旧はゴールではなく、通常運用へ戻す作業の始まりです。
まとめ AIを使うほど、止まった時の戻り道が価値になる
2026年9月3日の主要AIサービス障害は、AIが日常の作業に深く入り込んでいることを改めて示しました。OpenAIとAnthropicの公式ステータスには、ChatGPT、Codex、Claudeの複数モデルでエラーが起き、調査から復旧へ進んだ記録が残っています。報道でも、複数のAIチャットボットで利用者から障害報告が相次いだことが伝えられました。
今回の教訓は、AIを使わないことではありません。むしろ、AIを便利に使い続けるために、止まった時の確認手順、代替手順、入力情報のルール、復旧後の記録を用意することです。AIは文章作成や開発、調査、顧客対応を大きく助けますが、業務の責任まで自動で引き受けるわけではありません。
個人なら、元資料と手元メモを残す。小規模事業者なら、1ページの代替手順を作る。企業なら、AIが止まった時に影響する業務を棚卸しし、責任者と連絡経路を決める。こうした地味な準備が、AI時代の業務継続を支えます。
AIが動く時の便利さだけでなく、動かない時の戻り道を設計する。その視点を持つことで、新しいAIサービスを過信せず、過度に恐れず、自分たちの仕事に合った形で使いやすくなります。
参考資料
- Elevated errors across ChatGPT and Codex(OpenAI Status)
- Claude Status(Anthropic)
- Widespread AI Outage Largely Resolves After Hitting OpenAI, Claude And Others(Forbes)
- ChatGPT, Grok, and Claude all went down at the same time(The Verge)
- AI Risk Management Framework(NIST)
- NIST SP 800-61 Rev. 3 Incident Response Recommendations and Considerations
- Resilience Services(CISA)

