2019年に公開された三谷幸喜監督の政界コメディ映画「記憶にございません！」のあらすじを以下にまとめます。
物語の設定
物語の主人公は、黒田啓介という名の内閣総理大臣です。彼は国民から史上最悪のダメ総理と呼ばれ、支持率はわずか2.3%という憲政史上最低を記録していました。黒田は傲慢で貪欲、暴言を吐き、女性蔑視やセクハラ、パワハラ、さらには動物虐待まで行う最悪の政治家として描かれています。
記憶喪失のきっかけ
ある日、黒田が演説を行っている最中に、一般市民が投げた石が彼の頭に当たります。この事故により、黒田は病院に運ばれ、目覚めた時には完全な記憶喪失に陥っていました。
秘密の記憶喪失
黒田の記憶喪失は、国政の混乱を避けるため極秘事項とされ、3人の秘書官以外には知らされません。黒田自身も自分が誰なのかわからないまま、テレビで自分が総理大臣であることを知ることになります。
新しい黒田の誕生
記憶を失った黒田は、それまでの悪徳政治家から一転、善良な普通のおじさんに変貌します。彼は自分が国民に嫌われていることを知ってショックを受けますが、同時に国のために何かしたいという純粋な気持ちに目覚めていきます。
日々の困難
記憶を失った黒田は、政策はもちろん、大臣の顔と名前、国会議事堂の本会議室の場所、さらには自分の息子の名前すらわからない状態で日々の公務をこなさなければなりません。さらに、記憶にない件でタブロイド紙のフリーライターにゆすられたり、記憶にない愛人にホテルで迫られたりと、様々な困難に直面します。
家族関係
黒田の家庭生活も決して平穏ではありません。妻の聡子（石田ゆり子）は黒田に内緒で浮気をしており、息子も非行に走っているようです。
アメリカ大統領の来日
そんな中、アメリカの大統領スーザン・セントジェームス・ナリカワ（木村佳乃）が来日することになります。日系アメリカ人の女性大統領との会談を、記憶喪失の状態でどう乗り切るかが黒田の大きな課題となります。
政治への真摯な取り組み
記憶喪失になったことで、黒田はあらゆるしがらみから解放され、真摯に政治と向き合うようになります。彼は本気でこの国を変えたいと思い始め、自らの夢と理想を取り戻すために奮闘します。
周囲の人々の反応
黒田の変化は周囲の人々にも影響を与えます。秘書官たちは黒田をサポートしながらも、彼の変化に戸惑いを感じます。特に井坂秘書官（ディーン・フジオカ）は、記憶喪失となった黒田を利用しようとします。一方、事務秘書官の番場のぞみ（小池栄子）は、かつて黒田のセクハラの被害者でしたが、彼の変化に戸惑いながらも協力していきます。
政界の反応
黒田の突然の変化は、政界にも波紋を広げます。野党第二党の困民党の党首である山西あかね（吉田羊）は、黒田と同期で過去に男女の関係があった人物ですが、彼女も黒田の変化に驚きを隠せません。
物語の展開
黒田は、他国首脳、政界のライバル、官邸スタッフ、マスコミ、家族、国民を巻き込みながら、自らの夢と理想を取り戻すために奮闘します。彼の純粋な姿勢と真摯な政治への取り組みは、徐々に周囲の人々の心を動かしていきます。
結末
物語の結末では、黒田が本当に国のために尽くそうとする姿勢が、国民や政界に少しずつ理解されていく様子が描かれます。彼の変化は、周囲の人々にも良い影響を与え、政治の在り方や人々の価値観にも変化をもたらします。
作品のメッセージ
この作品は、コメディタッチで描かれながらも、政治家の本来あるべき姿や、国民のための政治とは何かを問いかけています。記憶を失うことで初心に返った政治家が、純粋な気持ちで国のために尽くそうとする姿を通じて、現代の政治や社会の問題を風刺的に描いています。「記憶にございません！」は、笑いと感動を織り交ぜながら、政治家の責任、国民との関係、そして真の政治の意味を考えさせる作品となっています。
映画「記憶にございません！」に対する感想を以下にまとめます。
斬新な設定と社会風刺
この映画の最大の魅力は、その斬新な設定にあります。内閣総理大臣が記憶喪失になるという premise は、一見荒唐無稽に思えますが、これを通じて現代の政治や社会の問題を鋭く風刺しています。支持率2.3%という憲政史上最低の評価を受けていた主人公が、記憶を失うことで初心に返り、真摯に政治と向き合う姿は、現実の政治家たちへの皮肉とも取れます。
コメディとシリアスの絶妙なバランス
三谷幸喜監督の真骨頂とも言える、コメディとシリアスの絶妙なバランスが、この作品の大きな魅力です。記憶を失った総理大臣が周囲の期待に応えようと奮闘する姿はコミカルでありながら、同時に政治家としての責任や理想を問いかける重厚なドラマ性も併せ持っています。観客は笑いながらも、日本の政治や社会の在り方について考えさせられます。
キャラクター設定の妙
主人公の黒田啓介を演じる中井貴一の演技が素晴らしく、悪徳政治家から善良な普通のおじさんへの変貌を見事に演じ分けています。また、秘書官たちや家族、政敵など、脇を固める俳優陣も個性豊かなキャラクターを生き生きと演じており、物語に深みを与えています。
政治の理想と現実
この映画は、政治の理想と現実の乖離を鮮やかに描き出しています。記憶を失った黒田が純粋に国のために尽くそうとする姿勢は、本来あるべき政治家の姿を示唆しています。一方で、周囲の政治家や官僚たちの反応は、現実の政治の複雑さや権力構造を浮き彫りにしています。
人間性の回復
黒田の変化は、単に政治家としての姿勢だけでなく、人間性の回復をも象徴しています。記憶喪失になる前の黒田は、傲慢で自己中心的な人物として描かれていましたが、記憶を失うことで謙虚さや他者への思いやりを取り戻していきます。この変化は、現代社会において失われつつある人間性の大切さを訴えかけているようにも感じられます。
家族関係の描写
黒田の家族関係の描写も興味深いポイントです。妻の浮気や息子の非行など、一見理想的に見える政治家の家庭の裏側を描くことで、公私の境界線の難しさや、権力者の孤独さを浮き彫りにしています。
日本の政治システムへの批判
この映画は、日本の政治システムに対する批判的な視点も含んでいます。総理大臣が記憶を失っても国政が回り続けるという設定は、官僚主導の政治システムや、政治家の実質的な影響力の薄さを皮肉っているようにも見えます。
国際関係の描写
アメリカの女性大統領との会談シーンは、日本の国際関係における立ち位置や、外交の難しさを巧みに描いています。また、日系アメリカ人の女性大統領という設定自体が、日本の政治における多様性の欠如を指摘しているようにも感じられます。
メディアの役割
タブロイド紙のフリーライターによる脅迫シーンなど、メディアの負の側面も描かれています。これは、政治とメディアの複雑な関係性や、スキャンダル報道の影響力を示唆しており、現代のメディアの在り方に一石を投じています。
希望のメッセージ
この映画は、政治や社会の問題を鋭く風刺しながらも、最終的には希望のメッセージを発しています。黒田の変化が周囲の人々にも良い影響を与え、少しずつ状況が改善していく様子は、個人の変化が社会全体を変える可能性があることを示唆しています。
演出の巧みさ
三谷幸喜監督の演出の巧みさも、この作品の大きな魅力です。テンポの良い展開、的確なカメラワーク、効果的な音楽の使用など、技術的な面でも高い完成度を誇っています。特に、黒田の内面の変化を表現するシーンでは、繊細な演出が光ります。
日本社会への問いかけ
この映画は、単なるエンターテインメントを超えて、日本社会全体への問いかけとなっています。政治家の在り方、国民の政治参加、メディアの役割、家族関係など、様々な側面から現代日本の課題を浮き彫りにしています。
結論
「記憧にございません！」は、コメディという形式を巧みに利用しながら、深い社会批評を展開している秀作です。笑いと共に鋭い洞察を提供し、観客に政治や社会について考えるきっかけを与えています。この映画は、エンターテインメントとしての楽しさと、社会派作品としての重厚さを兼ね備えており、幅広い層に訴求力を持つ作品だと言えるでしょう。政治や社会問題に関心がある人はもちろん、純粋に楽しい映画を求める人にとっても、満足度の高い作品となっています。最後に、この映画が投げかける「理想の政治家像」や「真の政治の意味」について、観客一人一人が考えを巡らせることが、この作品の真の価値を理解することにつながるのではないでしょうか。
